生物の勉強法 第4話 「生物学的思考」を「生物学的反応」に昇華させる!
今回は、前回の「生物学的思考」をもっと説明しましょう。さらに、この「生物学的思考」を「生物学的反応」に昇華させよう!という話です。
ではさっそく次の例題を解いてみましょう。
では問1から。
みなさんは問題文を読んでどう反応したでしょうか? 前回の解説からなんとなくはわかっていますよね。「リピッドキャリアーなんて知らない、だからこの問題は解けない」じゃあないですよね。学生が「リピッドキャリアーなんて知らない」のは出題者だってわかっています。そうではなく、「生物学的思考」ができるかどうかを試しているのです。
では、この問1で必要な「暗記事項」、「生物学的思考」を説明していきますね。
みなさんは細胞膜の構造は知っていますよね? 知らなかったら、これは前々回で出てきた「①必要なことがまだ暗記し切れていない」の部分に相当します。急いで暗記しましょう。
さて、図を見てわかる通り、細胞膜の主成分はリン脂質です。図にはありませんがタンパク質(イオンチャネル・キャリアー・ポンプ・受容体など)も成分として含まれているのは知っていますよね? で、タンパク質を除くリン脂質だけの部分を「リン脂質二重層」と表現します(ここから先、「細胞膜」としたときは、「リン脂質二重層」の部分のことです)。
さてこのリン脂質、親水性の部分と疎水性の部分があるわけです。
はい、まずここ!! ここから「細胞膜を通過するのって大変だなあ」と思わなくてはならないのです。だって親水性の物質なら疎水性の部分を通過しにくいだろうし、疎水性の物質なら親水性の部分を通過しにくいでしょう。親水性の物質であっても疎水性の物質であっても細胞膜は通過しにくいのです。ただし、ここでちょっと注意。「脂肪やステロイド(どちらも疎水性の物質)は細胞膜を透過する」のです(これは暗記事項なので覚えておきましょう)。どういうわけか、疎水性の物質は親水性の部分を通過してしまうのですね。暗記しておいてください。そしてもう1つ、「親水性の物質は通過できない」も暗記事項です。例えばグルコースやアミノ酸、そして水分子などは細胞膜を透過できません。だからこそ細胞膜にはグルコース・アミノ酸を輸送するためのタンパク質(キャリアー)や水分子を通すためのアクアポリンがあるわけです。まとめると…
次に「細菌の細胞壁の成分はペプチドグリカンである」というのは知っていますよね。これも暗記事項。なのですが、ではペプチドグリカンはどんな物質でしょうか? 「そんなの習ったことないから知らない」と思いましたか? でもこれからは「自分の持っている知識をフルに使って考えるクセ」をつけましょう。つまり、「ペプチドはペプチド結合のことかな? ということはアミノ酸が含まれているのかな? そしてグリカはグリコ(=甘い)が活用したもので糖のことかな?(←知らなかったら知っておきましょう)。ということは、ペプチドグリカンはいくつかのアミノ酸といくつかの糖からできているのかな」という具合です。こういうクセをつけましょう。すぐにあきらめないで、自分が持っている知識をフル活用して考えるクセをつけましょう(←ということは生物では知識がとっても大切なのがわかりますね。ガンガン暗記してください)。さて、アミノ酸と糖ですから、親水性のものが多いですね(←実際にペプチドグリカンを作っているアミノ酸と糖は親水性です)。ということは、細胞壁の材料は基本的には細胞膜を透過しないのです。
さて、ここまでくればだいぶ見えてきましたね。ここで必要な「生物学的思考」は次のようになります。
細胞壁の成分はペプチドグリカンだ→水溶性なので細胞壁は透過できないはずだ→それが通るというのだから「リピッドキャリアー」はそれを可能にする物質らしい。
ただし気を付けたいのは、透過させるのではないのかもしれません。リピッドキャリアーは、エンドサイトーシスによって細胞外へ分泌することを可能にする物質なのかもしれません。そこでその辺はぼかして「透過」ではなく「通過」くらいにして解答する方が無難でしょう。
解答例:親水性・疎水性両方の性質を示す細胞膜の通過を可能にする。
次に問2。
「『抗生物質によって細菌がどんなふうに死滅するか』なんて習っていない」というのは通用しないのはもうわかりますよね? ではここで必要な「暗記事項」「生物学的思考」は何でしょう?
細菌って、どこでどうやって暮らしているのでしょう? 例えば土壌細菌。亜硝酸菌や硝酸菌って知っていますよね。彼らは土壌中にいるものが多いのですが、土壌中のどんなところにいるのでしょう? 土の粒子の上に乗っているのでしょうか? 答えは水の中。土壌は水分を含んでいますよね。ミクロのレベルで見ると、土の粒子と粒子の間は水で満たされているのです。その水の中を浮遊している(鞭毛をもっている種は泳いでいる)のです。
次は細胞壁の話。植物が細胞壁を持っているのは知っていますよね。ではなぜ持っているのでしょうか? 理由はいろいろありますが「植物体を丈夫にするため」というのが一番でしょうね。植物は陸上の生物です。重力がかかりますから、それによってつぶれないように全体を頑丈にする必要があります。もっとも細胞壁だけでは重力に逆らえないので「木化」という現象も見られます(「木化」の説明は別の機会で)。
では細菌にはどうして細胞壁があるのでしょうか? これを講義中に質問すると「形を保つため」とか「丈夫にするため」とかいろいろ答えてくれるのですが、そんな解答をするようでは「生物学的思考」が不足しています。単細胞生物は常に「細胞内外の濃度差」という脅威にさらされているのです。これがここで必要な「生物学的思考」です。もうわかりますね。細胞内外で濃度差(ただしくは浸透圧差)があると水が移動するんですよね。細胞内の方が細胞外より濃度が高いと、細胞内に水が入ってきてしまう。最後には破裂してその細胞は死にます。
というわけで、細菌(←単細胞生物ですよ)が細胞壁を持っているのは「破裂防止」のためです。
ここで改めて問2の問題文を読んでみましょう。「細胞壁は内側から常につくられ続けていて、外側から崩壊し続けている。それによって常に20層くらいになっている」。ここでペニシリンは細胞壁の合成を阻害するわけですから、「細胞壁は外側から崩壊するだけ」になってしまいますね。やがて薄くなってついにはなくなる。すると、濃度差で水が入ってきて破裂して死滅するのです。
ちなみに、細菌内部の濃度はどんなものなのでしょうか? 大腸菌は20~30分に1回分裂します。ということは「その内部ではものすごい勢いで化学反応が起こっているのでは?」と想像できませんか? 従って、その内部には様々な物質が高濃度で詰まっていると考えられます。
解答例:細胞壁が合成されなくなるため、外側から崩壊するだけになる。このため、やがて細胞壁に穴が開き、濃度差で侵入した水によって破裂する。
さて、ここまでの説明で「生物学的思考」って何なのかわかってもらえたと思います。が、入試本番では、問題を読んだ瞬間にこの「思考」ができないといけないわけです。つまり、「思考」ではなく「反応」しなくてはならないのです。
「生物学的思考」を「生物学的反応」にする、これには「生物学的思考」を意識しつつ問題を解く練習を積んでいかなければなりません。
☆「生物学的思考」は、大堀の参考書「大堀先生、高校生物をわかりやすく教えてください(上巻・下巻)」に惜しげもなくふんだんに書いてあります。持っている学生さんは、もう一度じっくり読みなおして、どの部分かを探してみましょう。
☆代ゼミの大堀の講義では、このような「生物学的思考」を君たちの脳にどんどんインストールしていきます。やがて「思考」ではなく瞬間的に「反応」できるようになってきます。「生物学的思考」→「生物学的反応」。ここまで持ってこれれば、生物の偏差値は簡単に70を超えます。大堀の講義を受講する予定の学生さん、楽しみにしていてくださいね